入社から4年。新人ではないけれどベテランとまでは至っていない。そんな私が感じた「電気を守る」ということ

入社から4年。新人ではないけれどベテランとまでは至っていない。そんな私が感じた「電気を守る」ということ

入社4年目といえば、経験をそれなりに積み、仕事に慣れてやりがいと自信を感じる時期ではないでしょうか。同時に多くの失敗も経験し、苦い経験に右往左往することもあるでしょう。今回は新人ではないけれどベテランとまでは至っていない、入社4年目の女性職員・佐久間絵里さん(仮名)にWattMagazine編集部がインタビューを実施。北海道電気保安協会で電気主任技術者として働く佐久間さんが、入社4年目になって知った仕事の魅力とは?


「いつまでも新入社員のような気持ちではいけない」と注意されてしまった

――佐久間さんは現在どのようなお仕事をされているのでしょう。

 

「電気設備の保安管理業務をしています。一般のご家庭では低圧の電気設備を使いますが、工場や大きなビルでは高圧の電気を受電する電気設備を使用します。そのような施設には、有資格者を常駐させ設備点検を定期的に行う必要があります。有資格者を常駐させるのが難しい場合、私たち北海道電気保安協会がお客さまから委託を受けて、電気設備の保安管理業務を実施しています。電気設備の保安管理業務を行うには第三種電気主任技術者という資格を取得していなければなりませんし、限定的に小さめなお客さまの設備を担当できるまでには4年、その限定が解除になるには更に1年の実務経験も必要です」

 

――では、佐久間さんはこの資格を持ってらっしゃる?

 

「はい、第三種電気主任技術者の資格は取得しています。しかし実務経験はまだまだ。(20208月時点で)資格取得から3年目となり、2021年には限定的なお客さまの設備を担当できます。今は先輩に同行し、現場で仕事を教えてもらいながら業務を覚えていますが、早く一人前になりたいですね!」

 

――現時点では、まだ一人で保安管理業務を担当できないのでしょうか。

 

「はい、まだ出来ません。そして情けないことに4年目になってもまだまだ失敗ばかりです。でもそこから学ぶことは多々ありますから、ネガティブに捉えすぎないようにしています。そうそう、失敗で思い出しましたが、少し前にあるお客さまの業務を数人で行ったんですね。そこは作業内容が多いので数班に分かれて各々作業を行うのですが、その業務は年に何回か実施したことがあったので、作業手順が分かっているだろうと、先輩に作業を任されました。しかし実際に着手すると作業を細部までは覚えておらず手が思うように動かない…! その時、なぜしっかりとメモに残しておかなかったのかと後悔しました。以前、先輩から『いつまでも新入社員のような気持ちではいけない』と注意されたことがありましたが、改めてその言葉を痛感しました」

 

――そんな失敗が…。でも成功体験もあるんじゃないですか?

 

「うーん…。あっ! 思い出した。高圧の電気設備には保護継電器という各種センサーが付いているのですが、例えば電気の使いすぎを検知すると自動的に電気を切るようにスイッチに働きかけます。このスイッチが正常に働かないと、火災や地域一帯の停電の原因になる、非常に重要なもの。しかし、この保護継電器が正常に働いているか確認する際は、建物を停電させる必要があるため、決められた時間内に終わらせなければなりません。そのため、点検に行く前に予習と練習をしてその日に臨みました。そのかいもあって、時間内に完了! 準備をしっかりして業務ができたので達成感がありました」

 

北海道胆振東部地震に遭遇。復旧作業で被災地へ

――成功体験は自信に繋がりますね。その他に、達成感を得られた経験はありましたか?

 

「この仕事をしていると電柱に登ることもあるのですが、実は高いところが苦手で…。上の方に登ると電柱の揺れを感じて、足がすくんでしまうのです。ロープの支えなしで腕力だけで登っていかないといけない瞬間もあるので、その時は腕がブルブルふるえてしまいます。でも先輩方が電柱に登る機会を多く作ってくれたおかげで、最近になってやっと上の方へ到達することができました!」

 

――おお! 電柱を登る場面があるなんて知りませんでした。危険な仕事ですね。

 

「そうですね。なので電柱に登る際は、安全作業のために定められた作業手順を順守しています。また、この仕事は被災地に向かうこともあります。2018年に北海道胆振(いぶり)東部地震が発生しましたが、そのとき私は震源地が管轄内にある苫小牧支部にいました。地震によって高圧の電気設備に異常がないか巡回に行ったり、震源地近くの避難所に電気を供給するのを手伝ったりと非常に記憶に残る経験をしました。避難所へ近づくにつれて道路の隆起や崖崩れした山の痕が視界に入り、内心は非常にドキドキしていました。そのとき私は、人々の生活を元に戻すため、復旧に努める重要な仕事の1つに就いたのだと身をもって感じました」

 

――それは非常に印象的な出来事でしたね。

 

「あとは入社してすぐ、女性職員が集まる会合に出席したことも思い出深いですね。その会は電気保安を担う女性技術者が全国から集まるイベントだったのですが、各地域でたくさんの女性たちが切磋琢磨している姿を見ることができ、心強く感じました。そのイベントで、『電柱に登ったり、重いものを持ったりするのは大変』『子供を育てながら仕事が続けられるのか?』といった意見が出ていて、女性技術者への環境整備はまだまだこれからであり、自分も気づいたところは発信していかなければと思いました」

知らない場所へ潜入でき、綺麗な景色に出会える

――ここでしか経験できないことはありますか?

 

「多くのお客さまがいらっしゃいますので、いろんなお店や建物の中に入れることかと思います。例えば、商店やホテル、工場、地域によっては農場やテレビ局に行くこともあります。特に初めて入った建物は、とても新鮮で、もっとよく見ていきたいという気持ちになります。あと大きな建物は夜中にかけて仕事をすることもありますが、屋上での業務では綺麗な夜景を見られることもあります。山の上に行くこともあり、朝方は雲海が見えることも。このように色んな環境に関わる仕事でなければ経験できないことではないでしょうか」

――知らない世界や見たことのない景色に遭遇できるって楽しいですね。佐久間さんの今後の目標はなんですか?

 

「まず、実務経験を積んでお客さまを担当したいということがあります。しかし、一番目指したいことは、お客さまが困っている時に、しっかりと対応できるようになることです。電気が使えなくなったお客さまが連絡する先が、私たちです。その時、的確に判断し、原因を特定して対策を講じることが求められます。正しい判断は知識と経験がものを言いますので、そのためにも今は経験を積んで多くの事柄を学び、確実に対処するための練習をしていこうと思っています」

 

――大変だと思いますが、目標に向かって頑張ってください! では最後の質問になります。佐久間さんにとって電気とは?

 

「日常生活にあって当たり前、使えるのが当たり前。それが電気です。その電気を供給している設備は誰かが管理していかなければ使えません。そして危ないものでもあります。それをしっかりと管理していくのを陰ながらお手伝いするのが私の大切な役割だと感じています」


<取材・執筆>

野田綾子

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