低気圧とからだの関係
気圧や気温の変化に悪影響を受ける病気は、通常、「気象病」と呼ばれます。代表的な気象病として知られるのは、片頭痛、喘息、メニエール病などのめまいの症状、関節リウマチや腰痛症など痛みの症状、うつ病などがあります。
気象変化と症状の関連を調べた研究には、関節リウマチの方の症状が気圧低下時に有意に悪化したというデータや、2600人以上の大規模な調査で慢性痛の方の47%が「寒さで痛みが悪化する」と回答したなどの調査結果がありますが、これらのデータを見る限り、気象の変化で体調が悪くなることが嘘や間違いとは決して言えません。しかし、気象病はある条件が整えば確実に起こるような疾患ではなく、人によって起こる症状もさまざまです。

なぜ不調になるの?
医学基礎研究分野では、人工的な低血圧環境に置いたラットが痛みを強く感じるようになったという研究があります。このモデル動物で見られた低気圧効果は、内耳や交感神経を除去するとみられなくなりました。これらの研究結果から、気圧の影響は内耳で検出されている可能性、内耳が検出した気圧変化で交感神経が活性化して起こる可能性があるとの研究仮説が立てられています。
一方、「天気予報などを知って、たまたま同時に起こった自分の症状を気圧のせいだと思い込み、無意識にリンク」することで、「実際はごく小さかった気圧の影響を大きくして認知」し、「不安が症状を強める」という、慢性疼痛のメカニズムに似た心理的な側面もあるとの指摘もあります。
低気圧の時に、何か症状があったら

気象病の予防法や医学的に効果が立証された有効な治療法は今のところ確立されていません。まずは、鎮痛薬などで症状に対する適切に緩和すること、そして散歩や十分な睡眠など、自律神経を整えることを優先して行うと良いでしょう。
気圧と症状の変化を専門とする医療従事者がいる天気痛外来では、内耳への気圧への影響を減らすことが症状緩和につながると考えて、耳の後ろにあるツボ(完骨)を押す・耳周囲を冷やさない工夫・気圧調整耳栓の使用などの指導がされることがあるようです。また、気象痛に取り組む漢方医や中医師の中には、気象病の要素が強い片頭痛に対して五苓散を使ったり、症状に合わせた漢方薬で根本的な体質改善を目指したりすることで、一定の効果を挙げているところもあります。医療従事者の中でも気象病に対する理解は千差万別です。気象病の症状に困っていて専門的な助言を必要とする人は、気象病の専門外来への受診を検討しましょう。
また、症状と気圧の関連を強く意識するだけでは不安を強めてしまい、むしろ症状を悪化させるかもしれないことも覚えておいてください。気象と体調を管理するために日誌をつけることが、気圧の変化と症状に実際に関連があるか可視化することに役立つ場合も。この日誌は、気象病の専門外来への受診の際に、医療者にとっても適切な判断をするための非常に有効な資料にもなるのです。
まとめ
今回、気圧が体調変化を引き起こす気象病について、現在わかってきていることと気象病を専門とする医療従事者の推奨する治療や指導例を複数紹介しました。気象病は人にとって症状が違うため、改善方法も人それぞれです。現在、症状に悩んでいる方は、ぜひ専門の外来を受診されることをご検討ください。
プロフィール
加瀬敬子(ペンネーム) 医師・総合内科専門医。都内の総合病院に在籍中。