今は電気でロックする。仕事と音楽、どっちも本気で両立できた元バンドマンが語る“仕事の流儀”

今は電気でロックする。仕事と音楽、どっちも本気で両立できた元バンドマンが語る“仕事の流儀”

職場では電気を守り、プライベートではバンドマンとして歓声を浴びる。そんなオンとオフのギャップが激しい方が電気の世界にいました。それが、中部電気保安協会の三重県津市営業所に勤務する柳浩崇さんです。かつてパンクバンドのフロントマンとしてマイクの前でシャウトしていた柳さんは、電気のお仕事を続けながらも本気で音楽に取り組んでいました。時には遠方へライブしに行くなど慌ただしい日々を送っていた柳さんですが、仕事とプライベートをどのように両立させていたのでしょうか…?


職場で電気に触れ、ステージでは観客にビリビリと刺激を与える

――現在、三重県津市の営業所で電気保安業務を担当されているとのことですが、仕事内容を教えていただけますか。

 

「学校や工場など、大きな建物の電気設備(自家用電気工作物)の保守・点検業務をしています。一般の家庭と違い、高い電圧(6600V)を使用しているので、漏電をしていないか等、設備が安全に運用されているかどうかを確認しなくてはなりません。それを毎日対応しているのが、おもな私の仕事です」

 

――なぜこの仕事をしようと思ったのでしょう。

 

「工業高校の電気科に所属し、3年間電気の勉強をしていたので、そこで得た知識を活かしたいと思ってこの仕事を選びました」

 

――就職と同時期にバンド活動を本格化されたそうですね。

 

「はい。祖父が尺八の先生をしていて、幼いころから音楽が身近な存在だったんです。小学校の頃から楽器に触れ、高校時代ではバンドを組んで音楽活動をしていましたが、本格的に活動をはじめたのは社会人になってから。友人から、名古屋で活動するとあるバンドがベースヴォーカルを探しているから仲間にならないかと誘われたことがきっかけです。それからいくつかのバンドを渡り歩きますが、4年前にバンド活動を休止しています」

――どんなジャンルの音楽を演奏されていたんですか?

 

「パンク・ロックです。このジャンルの代表的なバンドをあげると、ラモーンズとかセックス・ピストルズが有名かな。当時は革ジャン姿にメイクをして演奏していました。激しい音楽をかき鳴らしながら、バンドメンバーが釘バッドを振り回し、高圧ガスを発射。ヒートアップした時なんか、客席にダイブしちゃったり(笑)激しいバンドでしたね」

バンド活動を続けることができたのは、休みの希望が通る職場だったから

――バンドでは、そうとう過激なパフォーマンスを披露していたんですね(今の姿からは想像できません…)。

 

「たしかに過激ですが、電気の仕事同様、安全第一で演奏していましたよ。その頃は仕事が終わったら、当時の赴任先だった三重県四日市市から高速に乗って名古屋へ向かい、遅くまでひたすら練習。そして家に戻ったらベッドへ直行して、起きたらすぐに出社するという日々を送っていました。残業が少なく、1カ月以上先も予定を立てておけば休みを取得しやすい職場なので、バンド活動がしやすかったですね。ライブは平日に開催することもありましたが、その場合、日中にライブのリハや準備をしなくてはならないから、なんやかんやで丸一日かかってしまう。だから、平日でも休みを取らなければならない。その点、休みについては職場の理解もあったし、計画的に取ることができたので自分のやりたいこともバランスよくできて本当に助かりましたね」

 

――バンドを辞めた理由は?

 

「結婚して男の子が産まれたことです。結婚前は週2でスタジオ練習、他の日も個人練習や創作活動に充てるなど、プライベートの時間はほぼ音楽のみでした。それに、ライブ出演で東京や九州まで足を延ばすなど、活動範囲も広がってきていたので、このままでは結婚生活がうまくいかなくなるんじゃないかって。どちらも大事でしたが、今の自分にとっては奥さんと子どもと過ごす時間の方が大事。そう思ったので、バンドから離れることを決意しました」

――趣味としてバンド活動をすることもできたのでは?

 

「メンバーがみんな命がけで音楽活動をしていたので、趣味で参加することはできなかった。定職に就いていたのは僕だけで、ほかのメンバーはメジャーデビューを目標に日々頑張っていましたから。活動を優先するあまり、電気やガスが止まるメンバーもいたぐらいです。それだけ本気で、真剣な気持ちで音楽と向き合っているのに、仕事や家庭が中心の僕がいては、熱量に差が生まれてしまう…。中途半端な気持ちで参加したくなかったので、バンドから完全に離れようと決めたのです。これまでバンド活動に充てていた時間は現在、家事・育児に費やしていています。毎日が新鮮で刺激的ですよ〜」

 

――音楽はもう一切関わらない?

 

「いえいえ。趣味でアコースティックギターをはじめたので、今でも日常的に音楽と触れあっています。いまの夢は、息子が大きくなったときに2人でセッションすること。叶うといいな~(笑顔)」

現在は電気設備の保守・点検をしています

音楽活動中に言われた言葉がいまの自分を支えている

――そんなバンド活動の経験がいまのお仕事に生きていると思う瞬間は。

 

「ステージでたくさんの観客を前に喋っていた経験が生きていますね。点検先のお客様に対し、しっかりした発声と堂々とした振る舞いで、臆することなく説明できます。お客様から見られているという意識がありますし、ステージで見られることに慣れたことで度胸がついたのかもしれません。


あと、音楽活動を通じて自分にとっての教訓を得ることができました。バンドの先輩から『死ぬこと以外かすり傷』という言葉をもらったんですが、すごくいい言葉だなと思って心に留めています。新しいことにチャレンジしようかどうか悩んだ時、いつもこの言葉を思い出すんです。そっか、死ぬこと以外はかすり傷なのだから失敗を恐れずにまっすぐ挑戦すべきだ!と。自分を奮い立たせ、励ましてくれる魔法の言葉です」

 

――柳さんが挑戦した新しいこととは?

 

「点検業務以外の仕事にもどんどん挑戦してみたいですね。会社から経理の仕事をしてみないか?と提案された時も、是非やらせて欲しいと迷わず手を挙げました。また、最近では手続き業務もこなしていますが、これも自分からやりたいとお願いして担当させてもらったお仕事です」

――点検業務以外に経理の仕事や手続き業務をこなしているのは、所属先の営業所では柳さんだけですか?

 

「そうですね。これからも新しいことに積極的に挑戦し、営業所で重宝される存在になりたいです」

 

――そんな柳さんにとって電気とは?

 

「あるのが当たり前であり、生活に欠かせないもの。工場でラインがスムーズに動き、校舎で学生たちが授業をちゃんと受けられるために、必要な電気。その電気を守るのがこの仕事であり、縁の下の力持ちでいることに大きな魅力を感じています」

<柳浩崇さんプロフィール>

中部電気保安協会の三重県津市事業所に所属。高校卒業後、中部電気保安協会に入社。電気設備の保安、試験業務、電気安全使用の広報業務に従事。営業所では保安業務の若手の中心としてリーダーシップを発揮。業務改善や業務効率化など積極的に提案し、その行動姿勢は意欲的で職場での信頼も高い。

 


<取材・執筆>

野田綾子

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