朝型信仰の罠!体質の差が睡眠格差を生む「社会的ジェットラグ」に要注意 後編

朝型信仰の罠!体質の差が睡眠格差を生む「社会的ジェットラグ」に要注意 後編

この記事では、2018年3月16日、東京・大手町で行われた三島先生によるセミナー「日常生活に潜む社会的ジェットラグ問題」(主催:武田薬品工業株式会社)をもとに、「体内時計と社会時刻とのミスマッチで生じる健康問題とその対策」についてお伝えします。


社会的ジェットラグの対処法

社会的ジェットラグにはどのように対処していけばよいのでしょうか。実は、人の体内時計はある程度調節することが可能です。

そのためには「休日の寝だめを抑える」ことが必要になってきます。具体的には、以下のとおりです。



①休日も平日と同じ時間に起床する

定時に目覚める習慣をつけ、寝だめを避けることで、体内時計の乱れを抑えます。

②日中の光を浴びる

体内時計を朝型にするには、「日中の光を浴びること」が必要。特に午前中の光が重要です。この光は瞳孔の奥の「網膜」まで届ける必要があり、目を閉じていると浴びたことにならないので、なるべく外に出るなどして活動します。

③30分以内の昼寝をとる

睡眠不足を解消するために、短めの昼寝をとります。

④夕方〜深夜は強い光を避ける

夕方以降に光を浴びると、目が醒めるだけでなく、体内時計が夜型に近づきます。特に青色光が及ぼす影響は大きく、「発光デバイスを深夜に1日4時間×5日間使用すると、体内時計が1.5時間遅れる」というデータも出ています。



・体内時計にほとんど影響のない暖色系の間接照明に切り替える
・スマホやパソコンといった発光デバイスの使用を避ける
など、なるべく光を避け早めに照明を落として就寝します。


これらを3週間ほど続けることで、徐々に体内時計を早めることができます。夜型だが朝型勤務の人、日中の眠気や不調に悩まされている人、休日の寝だめがやめらない人などは、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。 

「早起きして体質改善!」は「視力を上げろ」と同じ

最後に、ひとつ重要なことをお伝えします。

それは、社会的ジェットラグに悩んでいる本人による対処のみならず、職場・学校などの「社会」の側からの対処も非常に重要であるということです。社会的ジェットラグは、個人の体内時計にマッチしない社会スケジュールを求められたときに生じやすくなります。

しかし、「体内時計(朝型・夜型)」も個性の1つ。「早起きして体質改善!」という意見は、人によってはいわば「視力を上げろ」「背を伸ばせ」という論理と同じ。気力だけでは乗り越えられない人もいます。

とくに、若い世代は要注意。若い世代ほど必要睡眠時間が長く、思春期〜青年期にかけては「体質的に」夜型が強まります。平均的には、女性は19.5歳、男性は21歳で最も夜型傾向が強くなり、その後徐々に朝型に近づいていくというデータも出ています。

これを受けて、米国小児学会協会は以下のような声明を出しています。

1.学業と心身の健康を維持するためには毎日8.5-9.5時間の睡眠時間が必要で、睡眠不足を昼寝や週末の寝坊で穴埋めするのは無理である。

2.思春期は人生で最も体内時計が夜型化する年代なので、(あくまで平均だが)23時前に寝て、朝8時前に目覚めるのは難しい。

3.したがって睡眠時間を確保するためには現在の一般的な登校時間である朝8:30は早すぎるので、もっと登校時間を遅くするなど工夫が必要である。

実際に、オックスフォード大の主導によって、全英100校以上・約6万人の子どもを対象にした「10時始業」の効果検証が始められており、ある高校では成績上位者の割合が34%から50%に上昇、保健室を利用する生徒も減ったとのデータも出ています。


「社会」が個人に寄り添うことも生物学的に重要である

職場においても同様のことがいえます。日本の職場ではいまだ”朝型信仰”が根強く、昨今は「生産性の向上」「働き方改革」の号令により、「残業するより朝早く出社して仕事する」ことが推奨されるなど、ますますその傾向を強めているように感じられます。

「朝」に重点を起き、若手にも早朝出社や会議を求める中年社員も多いですが、22歳の新入社員の男性と55歳の管理職の男性を比べると、その睡眠ジェットラグの差は約2時間にもおよびます。生物学的理由からしても、中年社員にとっては負担ではない時間帯が、若手にとっては大きな負担になるということが大いにありえるので、おすすめできません。

海外では、これらの個人差に柔軟に対応できるフレックスタイム制や自宅勤務の導入なども進んでいます。それに比べると、日本は1周遅れ、むしろ逆の方向に向かっているといえそうです。

個人が個々の生活習慣を見直し、社会に合わせる努力をすることは大切なこと。しかし、個人差・年代差・性差を尊重し、社会が個人に寄り添う対応もまた必要なことではないでしょうか。これを期に、職場の”朝型信仰”を見直してみてはいかがでしょうか?

参考:三島和夫「日常生活に潜む社会的ジェットラグ問題」(主催:武田薬品工業株式会社)配布資料



元記事「朝型信仰の罠!体質の差が睡眠格差を生む『社会的ジェットラグ』に要注意」は2018年4月3日にBUSINESS LIFEに掲載されたものです。

朝型信仰の罠!体質の差が睡眠格差を生む「社会的ジェットラグ」に要注意 | BUSINESS LIFE

https://business-life.jp/sleep/9887#i

世間には"朝型信仰"があふれています。 朝早く出社して仕事をすることが推奨され、始業前や始業後すぐの時間に会議や打ち合わせが始まる……。職場においても、こんな"朝型"スケジュールで回っているところが多いのではないでしょうか。 朝早く起き、午前中に集中して仕事をし、夜は早く寝る。社会人の時間の使い方としては、理想的なものに思えます。 しかし、実はこの朝型信仰が

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