電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「京極発電所に行ってきたよ!電力はバランスが大事」

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「京極発電所に行ってきたよ!電力はバランスが大事」

電力は発電量(供給)と使用量(需要)が常に一致している必要があります。この状態は同時同量といい、気候によって発電量が変わる「再生可能エネルギー」の増加により、現在は同時同量が難しくなっています。そこで活躍するのが、需要と供給のバランスを整える役割がある揚水発電です。今回は北海道にある京極発電所に行って、揚水発電所の役割を取材してきました。 トップ画像:京極発電所上部調整池の前にて


同時同量の大切さと難しさ

電気は発電量と使用量が常に一致していないと、大規模停電を起こします。そのため、発電量が多い時は発電量を抑えるか、電気を使う量を増やさなければならず、逆にエリア全体で電気の使用量が多い時は、発電量を増やすか使う量を減らさなければなりません。

秒単位での瞬間瞬間の調整は、一般送配電事業者が行っています。一般送配電事業者とは、たとえば東京エリアであれば東京電力パワーグリッド、北海道電力では北海道電力ネットワークといった会社のことです。

再生可能エネルギーが増えたことで、エリアの電力使用量がさほど多くないときにも発電したり、気候によって発電量が変動したりするようになりました。一般送配電事業者は、発電量の変動があっても常に同時同量できるように、365日24時間体制で電源を止める指令や発電する指令を出しています。電気をあまり使わない春や秋は、昼間に太陽光が発電しすぎるため発電させないように制御します。同時同量するには、太陽光発電を制御する必要がありますが、それでは再生可能エネルギーの有効活用できません。そこで活躍するのが「揚水発電」です。

揚水発電とは

揚水発電は水力発電の一種で、通常の水力発電は川の流れやダムに貯めた水の力で発電のみをしますが、揚水発電は下から上に水をくみ上げることができます。発電所の上部と下部に調整池を作り、エリアとして発電量が多い時はポンプを稼働して水を汲み上げます。この時、電気を使ってポンプを動かすので、余っている電気を有効活用することができるのです。

京極発電所の全景

発電量が不足する際は、上部の池の水を落として通常の水力発電の原理で発電をします。水力発電は水を高いところから落とすことで水車と発電機を回して発電をします。水を高い位置に運ぶにはエネルギーとして電力を使います。再生可能エネルギーが余っているときも、揚水して水を汲み上げておくことで電気の有効活用ができるということです。京極発電所は、中でも純揚水といい、上部調整池へは川からの水の流入はなく、下の調整池からくみ上げた水のみが溜まります。

京極発電所の役割とは

上部調整池にて

北海道はエリア全体の電力使用量が大きくはないため、時間によって再生可能エネルギーが余ることがあります。しかし、冬には暖房をたくさん使うため、朝の立ち上げ時は電気が足りなくなってしまうことも。余った電気は、水をくみ上げ再生可能エネルギーの有効活用をしたり、電力の使用がピークになるときに備えて事前に水をくみ上げておきピーク時に発電したりすることで、需要と供給のバランスを保っています。

北海道は本州と違い、他のエリアとの電力融通を充分に行えません。東北地方とつながっていますが、あまり多くの電力をやり取りできないため、北海道エリア内で需要と供給のバランスを取らなくてはならないのです。そこで活躍しているのが京極発電所です。

京極発電所の見どころ

京極発電所の発電機がある場所へ向かうトンネルと発電機の軸

京極発電所は北海道の大自然に囲まれた場所にありますので、綺麗な景色が拝めます。施設も大きな設備で見どころ満載ですが、特に印象に残ったのは上部調整池と発電所へ向かうトンネルです。

上部調整池は、札幌ドーム3個分もの容量の水をくみ上げることができる大きさで、広大な人口の池が広がっています。私が訪問した際は、霧が漂い恐竜が現れそうな雰囲気でした。発電所へ向かうトンネルは長さ約1.5kmものワイルドな道が続いており、深く進んでいくと、その先には水力発電所の大きな空間が広がっています。中では水力発電の発電機が回っており、水の力で発電したり、ポンプの力で水をくみ上げたりしていることが見て取れます。この壮大な景色に水力発電所の偉大さを感じました。

プロフィール

伊藤菜々(いとう・なな)


上智大学経済学部経営学科卒業。電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わった後2019 年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。

電力事業の立ち上げ・運営支援、企業PRや商品広報、ZEH住宅やマイクログリッド等の地域脱炭素活動を行う。実績として、電力会社や企業での講演、学校での講義、展示会やイベントの出演を行う。 電気業界をたのしく!わかりやすく!解説した Youtube チャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を 2020 年 4 月開設し情報発信中。 第二種電気工事士、電験三種取得。現在電験二種の合格に向けて勉強中。

有限会社スタジオガルホームページ

Twitter

facebook 

Youtube

この記事のWriter

WattMagazine編集部 編集長

関連する投稿


「ブロックチェーンってなに?」神奈川県工業高校で特別講座を開催。熱狂した講座のアフターレポート

「ブロックチェーンってなに?」神奈川県工業高校で特別講座を開催。熱狂した講座のアフターレポート

グラフィックデザイナーの細谷巌さんや“ハマのドン”として知られる実業家の藤木幸夫さんなど、多くの著名人を輩出している神奈川工業高等学校。電気科、建設科、機械科、デザイン科があり、専門的な知識を学びたい学生さんに人気です。 今回は同校にて最先端テクノロジーに関する特別講義があるとのことで、WattMagazine編集部がお邪魔させていただきました。


電気予報士・伊藤菜々さんが解説!エアコンに使われている「ヒートポンプ」のしくみ

電気予報士・伊藤菜々さんが解説!エアコンに使われている「ヒートポンプ」のしくみ

入力するエネルギー以上に熱を作ってくれる、省エネ効果抜群のヒートポンプ。エアコンやお湯を作るエコキュートなどにも使われています。どうして効率がいいのか、省エネ効果や、今後どういう場所で活用されるのか、現在研究されている内容も合わせて解説します。


東大病院の大規模電気設備の点検現場に潜入!停電ができない設備の点検ってどうやって安全に作業してるの?

東大病院の大規模電気設備の点検現場に潜入!停電ができない設備の点検ってどうやって安全に作業してるの?

今回、訪れたのは東京都文京区本郷にある東京大学医学部附属病院です。患者さんの命を守るためにも病院の電気設備は安全に使用できる状態を維持しなくてはなりません。今回、年に一度実施される試験業務の点検作業に携わる関東電気保安協会の人たちを密着取材しました。


テレビCMでお馴染みの「関東電気保安協会♪」ってどんな仕事?編集部が研修施設に潜入!【後編・レポート】

テレビCMでお馴染みの「関東電気保安協会♪」ってどんな仕事?編集部が研修施設に潜入!【後編・レポート】

関東エリアにお住まいの方なら、テレビCMで「関東電気保安協会♪」というフレーズを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ただ、実際にどんな仕事をしているのか、どんな会社なのか、知らない方は多いはず。そこで今回は、関東電気保安協会についてご紹介すべく、WattMagazine編集部が同社の技術研修所へ潜入。後編では技術研修所について、レポート形式でご紹介します。


テレビCMでお馴染みの「関東電気保安協会♪」はどんな仕事をしているの?編集部が研修施設に潜入!【前編・インタビュー】

テレビCMでお馴染みの「関東電気保安協会♪」はどんな仕事をしているの?編集部が研修施設に潜入!【前編・インタビュー】

関東エリアにお住まいの方なら、テレビCMで「関東電気保安協会♪」というフレーズを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ただ、実際にどんな仕事をしているのか、どんな会社なのか、知らない方は多いはず。そこで今回、関東電気保安協会さまの技術研修所にWattMagazine編集部が潜入。どんなお仕事をされているのか、電気安全のプロ技術職員さんへお話を伺いました。


最新の投稿


電気は移動の未来も変える〜電気自動車や電気で動く乗りもの

電気は移動の未来も変える〜電気自動車や電気で動く乗りもの

いま、世の中には燃料を動力にして動く乗り物以外に電気の力を利用して動く乗り物が数多くあります。とくに「電気自動車」は、環境問題への取り組みが急務になっていることから、今後さらなる普及が予測されます。 今回は、電気自動車のしくみから、他の電気を活用して駆動する乗り物、未来に活躍するであろう乗り物を紹介します。


<見逃し配信あり>堀内健さんと一緒に社会科見学!関東電気保安協会が案内する電気保安のオシゴトと電気のハナシ

<見逃し配信あり>堀内健さんと一緒に社会科見学!関東電気保安協会が案内する電気保安のオシゴトと電気のハナシ

「電気を守るお仕事って、どんなことをするんだろう?」 ネプチューンの堀内さんがスタジオを飛び出し、関東電気保安協会へ!わかりやすく、楽しく、電気のお仕事を紹介してくれました。


【第二種電気工事士】勉強に必要なモノまとめ【2024年最新版】

【第二種電気工事士】勉強に必要なモノまとめ【2024年最新版】

本記事は「第二種電気工事士の資格勉強で必要な物が分からない・・」という受験者さんに向けの内容です。ネットや書店を調べると多くの教材がある中で「結局どれがいいのかわからない」というのが本音なんじゃないでしょうか。 結論から言うと、私が実際にお世話になった「すい〜っとシリーズ」が1番理解しやすく、勉強を継続しやすい教材です。 工具については「ホーザンの工具セット」が鉄板で、材料は3周練習できるセットをご紹介します。本記事では失敗しない教材選びを厳選。ぜひ参考にしていただければ幸いです。


生ごみや下水汚泥、家畜糞尿からエネルギー?バイオメタンの知られざる実力

生ごみや下水汚泥、家畜糞尿からエネルギー?バイオメタンの知られざる実力

石油や石炭などと同じ化石燃料として、温室効果ガスを発生させる液化天然ガス(LNG)は、カーボンニュートラルを目指した次世代において、使用を削減していかなければならない燃料のひとつです。 しかし、LNGは都市ガスに代表されるような一般家庭のガスや火力発電などにも毎日使用されておりすぐに使用を停止することができません。そこで、LNGの代わりとまではいきませんが、利用量を削減できる可能性のある新たなエネルギー源として、バイオメタンが注目されています。


電気工事士の魅力・やりがいとは?【現役電気工事士が解説します】

電気工事士の魅力・やりがいとは?【現役電気工事士が解説します】

電気屋さんの魅力とかやりがいってどんな時に感じるものなの?未経験の人にも分かるように教えて欲しい… 今回はこういった悩みに答えます。


人気記事ランキング


>>総合人気ランキング