現場レポート
セネガルで電気保安の未来を語る~電気保安協会職員が国際電気安全連盟(FISUEL)技術シンポジウムで見た「電気保安のいまとこれから」~
2025年10月中旬、フランス〜セネガルで電気保安業務や設備についての意見交換や発表を行う会議が開催されました。昨年に引き続き、今年度も電気保安協会の職員が訪問し、技術シンポジウムで発表。海外ではどのような課題があり、どのような取り組みが行われているのでしょうか…?参加した職員2名にインタビューしました。
目次
今回のインタビューにご参加いただいた2名
関東電気保安協会事業推進部課長代理 倉持昌成さん
2005年関東電気保安協会入社。2016年7月に保安本部 計画部、2021年2月に総務本部 技術研修所に所属。現在は電気保安本部計画部(現事業推進部)保安グループにて保安管理業務全般に関わる業務に従事。
九州電気保安協会事業部副長 江﨑絢平さん
1994年11月生まれ。福岡県出身。工業高校の電気科を卒業後、2013年に入社。北九州支部で自家用電気工作物の保安管理業務や試験・技術業務に従事し、2024年より本部事業部保安グループへ異動。現在は一般財団法人九州電気保安協会事業部保安グループ副長として、保安管理業務全般に関わる業務を担当。
フランスからセネガルへ。スケジュールもりもりの海外訪問!
今回の海外訪問における目的は2つ。フランスにおける業務用需要設備の検証制度の調査、そして国際電気保安連盟(FISUEL)年次大会への参加と発表をすることです。
まずはフランスのパリに本拠がある「フランス電力需要家保安協会(CONSUEL)」のもとを訪れ、労働省の専門家から労働法等にもとづいた業務用施設の検証制度について説明を受けました。この検証制度は、一般住宅と業務用施設とで制度が大きく異なるのだとか。今回は、一般業務用施設について調査し、主な関係法律となる労働法、建築・住宅法、エネルギー法をもとに調査。その後はみんなで美味しい食事に舌鼓をうちながら歓談を楽しみ、交流を深めました。会食は、互いの国と文化をより深く理解するためにも非常に重要な時間なのです。

その後、FISUEL地域ワーキング会合、セネガル屋内電気設備品質促進協会(PROQUELEC)の30周年式典、理事会などへ参加し、活動状況を報告したり、蓄電設備に係る事故事例等の話において日本の事例を紹介したり、情報交換を行いました。そしていよいよ、技術シンポジウムへ…!
技術シンポジウムでは今回インタビューを行った倉持さんと江﨑さんがそれぞれ発表しました。次の項からお二人へ参加の感想を聞いてみました。
国際電気保安連盟(FISUEL)は、本部をパリに置く、電気保安の向上を目指す 民間の国際機関です。2002 年に設立された FISUEL には、現在世界各国から 28の組織が加盟しており(2025年現在)。電気保安協会全国連絡会は2006年に加盟しています。電気保安協会全国連絡会は海外の電気保安組織と情報交換等を行っています。
CONSUELとは
フランス電力需要家保安協会(CONSUEL)は、本部をパリに置く、電気設備の検査 関係の業務を手掛ける公益法人です。2023年10月18日に電気保安協会全国連絡会と フランス電力需要家保安協会(CONSUEL)と情報交換、相互訪問等で協力する覚書 を締結しました。
日本とは異なる制度や課題を知り、学び得たこととは
――フランスの業務用施設(非住宅)電気設備電気保安制度についてレクチャーを受けたとのことですが、日本とどのような違いがございましたか。
倉持さん:日本ではおもに「電気事業法」という電気に特化した法令により電気保安を規制していますが、フランスではエネルギー法をはじめ労働法、建築・住宅法により施工者と使用者、それぞれの観点から規制が設けられており、はじめは非常に複雑な印象を受けたんです。しかし、実際に発生した感電事故や電気火災をもとに法令が改正された事例を聞いて、悲痛な事故を防ぐためにきめ細やかな運用方法が構築されていることに気づきました。
なお、検査項目については日本と大きな違いはありませんが、フランスでは特に、新設時や変更工事時の検査に重点を置いているようです。

左から、江﨑さん、倉持さん、全国連中井主査、全国連本多事務局長、Patrice氏、Bruno氏、Marc氏
江﨑さん:フランスでは、新設時や定期点検では、社内の有資格者または外部の認定機関への委託が認められていますが、社内有資格者による点検は要件が厳しく、実際には外部機関への委託が約99%を占めていると言います。日本でも電気主任技術者の選任が約9割外部委託ですし、社内で技術者を確保することの難しさや、外部委託制度の合理性を改めて実感した気がします。
――国際電気保安連盟(FISUEL)への参加を通して、どのような気づきがありましたか?

倉持さん:今年度は開催地がセネガルだったため、アフリカ諸国の参加者が多く参加されていました。各国の優れた電気設備の検査制度について学ぶことができた一方、各制度の運用実態や電気製品の粗悪品や偽造品による電気火災防止などの課題も多く、解決に向けた意見交換が活発に行われました。
会議で驚いたのは、ほとんどの参加者が開始時刻に参集しない、予定の発表時間を大幅に超過するなど、日本との時間感覚がかなり異なること。国際的な会議ではこうした事態にも柔軟に構える必要がありますね(笑)。
江﨑さん:日本では電気用品安全法により製造・輸入・販売が規制されているため、一定の品質が担保されていますが、セネガルでは規格を満たしていない粗悪品が多く流通しているとのこと。粗悪品が出回る環境では、どれほど施工品質を高めても電気事故は減りません。粗悪品を根絶するには、まず、「安い」という理由で手を出さないよう、消費者をはじめ、全ての人が意識を変えていく必要があります。最近は日本でもモバイルバッテリーの発火事故が増えていますし、正規品を選ぶことの重要性を改めて感じました。
また、「コーヒーブレイク」では、リラックスした雰囲気がコミュニケーションを活発にし、新たなアイデアや議論が次々と生まれていきました。これも、国際会議ならではの体験かもしれません。
――ご自身の発表に対し、どのような反応がございましたか。

江﨑さん:私は「災害に備えた電気設備の保安体制」というテーマで、日本で発生する災害から電気設備と財産を守るための対策について発表したのですが、終了後に「日本は自然災害が多いにもかかわらず、電気事故の発生件数が少ないことは素晴らしい。これからも、日本の取り組みを世界に広めてほしい」という嬉しい言葉を頂戴し、非常に前向きな気持ちになりました。
また、発表テーマとは異なりますが、私が所属する九州電気保安協会のマスコットキャラクター「ほぁんくん」について興味を持っていただき、「FISUELでもキャラクターを作ってみよう」という意見が。会場が一気に和みましたね(笑)。

倉持さん:私は「日本における太陽電池発電設備の保安規制について」をテーマに発表しました。自然災害による太陽電池発電設備の被災事例については身を乗り出して聞いてくださる方もいるほど、みなさん興味深く耳を傾けてくださいました。
江﨑さん:国外においては、太陽光発電設備や蓄電設備など、再生可能エネルギーに関する発表テーマが多くありました。日本でも今後、ペロブスカイト太陽電池や洋上風力発電設備など、新しい技術や設置形態が今後ますます増えていくと思います。
国は違えど、電気保安に関わるみんなの使命は同じ!「電気を安全に使えるよう守る」こと。

――国際電気保安連盟(FISUEL)参加を通して、今後、取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
倉持さん:日本とは異なる各国の電気保安に関する課題や取り組みに触れたことで、電気保安の業務に取り組む際に、専門分野にとらわれることなく、広い視野を持つことの重要性を再認識しました。
江﨑さん:海外の専門家との交流、そして日本から参加したメンバーとの意見交換も含め、非常に有意義な体験になりました。国際会議という大舞台で発表を成功させたことは、今後の業務において大きな自信につながると確信しています。
国や地域によって制度や仕組みは異なりますが、全体を通して強く感じたのは「電気を安全に使えるよう守る」という使命が世界共通だということです。そして、電気の安全は、製品・工事・保守管理が一体となって初めて実現するということを改めて実感しました。日本では、すべての工事や保守を有資格者が行い、法令によって厳しく規制されています。この強みを活かしながら、基本に忠実に、法令を遵守し、これからも電気の安全を守るために貢献していきたいです。
――ありがとうございました!最後にワットマガジンの読者に向けてメッセージをお願いします!
倉持さん:今回の遠征と発表は、他国の現状や課題を学ぶ、大変貴重な機会になりました。今回の経験を励みに、少しでも日本の電気保安に貢献できるよう、日々の業務に取り組んでいきたいと思います。
江﨑さん:国や制度が異なっても、電気は人々の暮らしに欠かせないエネルギーです。その電気を安全に使えるよう守る仕事に、改めてやりがいを感じています。
電気業界には少子高齢化や有資格者の減少といった課題がありますが、AIやDXの推進により、今後ますます発展していくことが予想されます。ぜひ、一緒に電気保安の新たな未来を築いていきませんか。

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