現場レポート
電気予報士・伊藤菜々さんレポート! JERA姉崎火力会発電所に行ってきました!
日本の電力の約8割を賄いながら、電力を使用するときのバランスを調整する役割も持つ火力発電。2023年2月に最新鋭のLNGコンバインドサイクル発電の運転を開始したJERA姉崎火力発電所に見学に行ってきました!熱いレポートをお届けします!
JERA姉崎火力のここがすごい!
JERAは東京と中部エリアの火力発電所を所有する会社です。日本の電力の大部分を賄い、気象によって発電量が左右される再生可能エネルギーの調整役を担う火力発電は非常に大事な存在ですが、発電量の多くを占めるからこそ、効率性が重要です。また、2050年にカーボンニュートラル(排出する温室効果ガスと吸収する温室効果ガスを合計ゼロにする)の取り組みを進める必要があり、火力発電によって排出される温室効果ガスを減らしていかなくてはなりません。 そんななか、JERA姉崎火力発電所では、2023年2月1日に最新鋭のガスタービン・コンバインドサイクル方式のLNG火力発電の運転を開始しました。旧式の火力発電は発電効率が40%を切っていましたが、最新の発電所ではなんと約63%もの効率で稼働できるそう。効率とは、投入したエネルギー量に対する電気の発電量を言い、火力発電の場合、多くが要らないものとして排出されてしまいます。効率が飛躍的に上昇したことで、海外から輸入しているLNGの使用量も減らせるため、約3割もコストを下げることができたと言います。
新1・2号機のコンバインドサイクルという発電方式は、一度燃料を燃やした後の廃熱を活用してもう一度お湯を沸かし、発電機を回す方式。つまり、今まで捨てていた熱を利用して、もう一度発電できるということです。さらに発電効率を上げるために、発電機を回転させるタービンに最新のものを取り入れたり、空気を取り込むフィルターを何重にもしたりするなど、工夫が凝らされていました。
汽力発電とコンバインドサイクル発電の違い
今までは汽力発電といい、石油などの燃料を燃やして水を熱して水蒸気にし、高温で高圧の蒸気をつくっていました。その蒸気で蒸気タービンの羽根を回し、同じ軸につながっている発電機を回すのです。汽力発電は水を蒸発させるために燃料を燃やしますが、その燃やした燃料や排気は大気に放出されてしまいます。熱量をもったまま大気に放出すると効率を下げることになり、石油などの化石燃料を燃せば、CO2だけでなく、ばいじんといった灰やその他の温室効果ガスも排出されます。 新方式のコンバインドサイクル発電は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせ、1度燃料を燃焼することで2回発電機を回せる方式です。ガスタービンとはジェット機にエンジンのようなもので、燃料と空気を高圧にしたものをほぼ爆発に近い勢いで燃やし、その膨張する力でガスタービンを回します。そして、その排ガスの余熱で水を蒸気に変え蒸気タービンを回します。さらに燃料はLNG(液化天然ガス)を使用しているため、温室効果ガスの排出量も汽力発電よりも少ないのです。 現在は古くなった火力発電がコンバインドサイクル方式へと置き換えられつつあります。火力発電の燃料には石油、石炭、LNGが使われていますが、LNGはクリーンなガスでコンバインドサイクル発電ができますが、石炭を使う場合はタービンに傷をつけてしまうためコンバインドサイクル発電をすることができませんでした。最近では粉状にした石炭を不完全燃焼させることでガス状にし、コンバインドサイクル発電に使えるようにする技術も確立されています。
新1号機を見学!
新1号機は旧火力発電所とも比べて敷地面積も狭く、建屋もコンパクトで、煙突の高さも通常の半分以下。発電所の根幹となる中央制御室はガラス張りの壁で明るく、シンプルでさっぱりした印象でした。古い発電所ではアナログのボタンを押して制御していましたが、新しい発電所はデジタル化し、ほぼ自動で稼働しているそうです。SFアニメにでてくるような最先端の印象をうけました。
外に出ると、大きな変圧器が目の前に!この主変圧器は、発電した電気を昇圧して送電線に送り出し、東京電力のエリアに電気を届けます。新1号機の発電機出力は65万キロワットにもなるので、約185万世帯分の家庭の電気をまかなっていることになります。変圧器は定期的に点検されながら、約70年も稼働を続けるそうです。 建屋の中は2階に分かれています。1階は復水器という蒸気を海水で冷まして水に戻す施設や、替えのタービン軸受けが置いてありました。2階には発電所のメインであるガスタービンと蒸気タービン、発電機が配置されています。ガスタービンの微妙な角度や素材を変えることで、最高効率を出しているとのことで、大きな音で遮熱をしてあるにもかかわらず、ほんのり暖かく、「ここでたくさんの電気が生み出されているんだなあ」感慨深い気持ちになりました。
ガスタービンは大量の空気を取り込み、圧縮した空気と燃料のLNGを爆発させた勢いでタービンを回します。高出力を保つには、タービンの羽根を傷つけないことが重要です。そのためには、取り込む空気のごみを綺麗に取り除く必要があり、大きなフィルターが何重にもなっている設備もありました。
2050年カーボンニュートラルに向けて
カーボンニュートラルとは、排出される温室効果ガスと吸収される温室効果ガスが+−0の状態になることです。日本では、2050年にカーボンニュートラルを目指しており、再生可能エネルギーを増やす目標が掲げられています。電力を維持するために、火力発電は再生可能エネルギーが気象状況で発電しないときに電力量を調整する役割を担っています。現在も発電の大部分は火力発電であり、ベースの電力を賄っていますが、なくてはならない発電だからこそ、効率を上げ、できる限り温室効果ガスを減らす取り組みを進めていかねばなりません。 今回はJERA姉崎火力発電所に訪れ、老朽化した古い発電所と新しい発電所、どちらも見学をさせていただきました。環境にも、私たちのお財布にも優しい火力発電として、技術とともに進化してこれからも電力の安定供給を支えていってほしいです。
プロフィール
伊藤菜々(いとう・なな)
上智大学経済学部経営学科卒業。電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わった後2019 年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。
電力事業の立ち上げ・運営支援、企業PRや商品広報、ZEH住宅やマイクログリッド等の地域脱炭素活動を行う。実績として、電力会社や企業での講演、学校での講義、展示会やイベントの出演を行う。 電気業界をたのしく!わかりやすく!解説した Youtube チャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を 2020 年 4 月開設し情報発信中。 第二種電気工事士、電験三種取得。現在電験二種の合格に向けて勉強中。