電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「地層処分ってなあに?避けては通れない大事な問題」

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「地層処分ってなあに?避けては通れない大事な問題」

原子力発電をした後に発生する燃料の燃えカスを高レベル放射性廃棄物と言いますが、放射線を発することから、人が生活する場所から離れた場所へ保管することが決められています。地下深くに埋めることを決めており、そのことを地層処分といいます。発電後の廃棄物処理は電気を使う私たちにとっても重要な問題なのです。


地層処分とは

地層処分を簡単に説明すると、原子力発電で使う燃料を使い切った後のゴミ処分のことです。原子力発電は燃料にウランやプルトニウムを使い、核分裂を起こさせることでエネルギーを生み出します。核分裂をする物質は、物質の最低単位である原子が不安定で、たくさん浴びると人間にも害があると言われている放射性物質を発します。核分裂を起こす燃料は、一度発電に使われた後も再加工ののち、新たな燃料として再利用されますが、最終的に燃料の2~3%ほどはたくさんの放射線を放つ状態でゴミとして残ってしまうのです。

これらを高レベル放射性廃棄物や地層処分相当低レベル放射性廃棄物といいます。これらは時間を置けば放射線を発する能力が弱くなり、人間へ害がない状態になりますが、それには数万年以上かかるのだとか。地上では適正な管理が必要なため、次の世代の人たちにも管理の義務を引き継がねばなりません。

原子力発電の必要性

原子力発電が大事な理由は3つあります。

1. 温室効果ガスを発しない

世界では地球温暖化防止対策が進んでいますが、電力に関しては、火力発電のように温室効果ガスを発するものから、水力や太陽光、風力などの温室効果ガスを発しない再生可能エネルギーなどがあります。2050年には日本は温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにすると宣言しており、温室効果ガスを出さない発電は大事です。

2. 少しの燃料で莫大なエネルギーを生み出すことができ、24時間発電ができる

再生可能エネルギーは温室効果ガスを出さないものの、施設のわりに発電容量が少なく、日本のエネルギーを全て賄うことができません。また気候に左右されてしまうため、電気が欲しい時に発電できないというデメリットがあります。それに対し、原子力発電は1基でも家庭何万世帯もの電力を賄え、気候に左右されず電気が欲しい時に発電をすることができるのです。

3. エネルギー自給率が高い

エネルギー自給率とは、国内の資源でどれだけエネルギーを作れているか、つまり輸入に頼っていないという指標です。日本のエネルギー自給率は10%ほどと少なく、日本の発電の7割以上を賄っている火力発電の燃料はほぼすべてを輸入に頼っています。海外の情勢が変わったり、円安になったりすると、日本にエネルギーが入らず、エネルギー価格が高騰してしまうので危険です。それに対し原子力発電は、元のウランは輸入しているものの、わずかな燃料でリサイクルもしながら何年間も発電を続けることができるので、純国産のエネルギーとなります。

最終処分地選定のプロセス

地層処分地は今後、選定調査のプロセスを経て、最適な土地を1カ所決めることになります。地層処分の一連の活動はNUMOという組織が行っていますが、これは全国民に関する重大な問題でもあるため、国も最終処分地選定に向けて積極的に取り組んでいくと宣言しています。

最終処分地選定のプロセス

まず、市町村単位で選定を受けるプロセスへ立候補します。基本的には立候補ですが、外部からの提案を基に検討し、プロセスに進むこともあります。調査を進めながら、断層が見つかったり、他の資源があったりした場合は最終処分場を作れないため、その土地が適正か否かを見極めます。

1.文献調査
その地域に保管されている資料を調べ、過去の災害や地形について調査します。この段階では、土地も掘りませんし、放射性廃棄物を持ち込むこともありません。

2.概要調査
実際にボーリングなどを行って、地層を調べます。

3.精密調査
仮の地下施設を作って地下の岩盤の様子や地下水などを調査します。

すべての調査が終わり、その土地に問題がないことがわかって、初めて最終処分地選定の判断が下されます。調査完了の段階ごとに自治体に検討をしてもらいますので、意に反して進めることはありません。また、適地だからと言って、強制的に最終処分地が決定することもないため、できるだけ多くの自治体が調査に名乗りを上げて国全体で決めていくのが好ましいです。過去の発電分ですでに出ている燃料ごみは、必ずどこかに処分しなければなりません。ですから、最終処分地選定は、私たちすべての国民にとって大事で避けては通れない問題です。

神恵内村に行ってきました!

現在日本では、最終処分地選定の第一プロセスである文献調査に名乗りを上げている自治体が2つあります。それが北海道の神恵内村と寿都町です。そこで今回はNUMO主催のシンポジウムで両自治体の町長、村長さんのお話しを聞きました。両自治体とも最終処分については必ず必要であり、どこかが名乗りを上げないと進まないという想いから、文献調査を受けることにしたそうです。

私は、文献調査を受けている自治体の様子を自分の目で見ようと、神恵内村へ。神恵内村にはNUMOの交流センターがあり、そこでは地層処分や文献調査についての説明を伺えたり、質問や不安ごとにお答えする対話の場が設けられたりしていました。村民との交流も多く、NUMOから神恵内村に常駐されている方々は、村の漁を手伝ったり、一緒にバーベキューをしたりすることもあるそう。海と山に囲まれた神恵内村は、雄大な自然が広がる素晴らしい場所です。

文献調査では実際に土地を掘り起こすことはありません。今後日本のどこかに最終処分地ができたとしても、放射性廃棄物は地下深くに安全に処分され、土地は埋め戻されます。
最終処分地選定の必要性は迫っており、多くの方に知ってもらい、多くの自治体が検討する事項になってほしいと思っています。今回の訪問でお話しした神恵内村民の方は、特に不安もなく、通常通りの生活を続けています。地層処分について正しく理解を深め、国民全体で解決していかなければならない課題だと思いました。

プロフィール

伊藤菜々(いとう・なな)


上智大学経済学部経営学科卒業。電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わった後2019 年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。

電力事業の立ち上げ・運営支援、企業PRや商品広報、ZEH住宅やマイクログリッド等の地域脱炭素活動を行う。実績として、電力会社や企業での講演、学校での講義、展示会やイベントの出演を行う。
電気業界をたのしく!わかりやすく!解説した Youtube チャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を 2020 年 4 月開設し情報発信中。 第二種電気工事士、電験三種取得。現在電験二種の合格に向けて勉強中。

有限会社スタジオガルホームページ

Twitter

facebook 

Youtube


この記事のWriter

WattMagazine編集部 編集長

関連するキーワード


伊藤菜々 レポート

関連する投稿


電気予報士・伊藤菜々さんレポート!周波数変換所に行ってきたよ!日本の電力を東と西で融通する場所

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!周波数変換所に行ってきたよ!日本の電力を東と西で融通する場所

電力には周波数があり、停電を防止するために常時、基準の周波数に合わせられています。日本の電力は、東は50Hz、西は60Hzと周波数がそれぞれ異なり、東西で電気を送りあうには周波数を変えなければなりません。災害時や、エリア内で需要と供給のバランスが合わないときに東西で電力を融通しあうことで、日本全体の電力を効率的に使うことができます。今回は、東西で電力を融通しあう為の周波数を変換する設備の見学とそこで働く方のお話を聞いてきました。


電気予報士・伊藤菜々さんレポート!電気主任技術者さんの停電年次点検に密着!

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!電気主任技術者さんの停電年次点検に密着!

電気主任技術者さんになると高圧設備の点検を行います。月次点検は基本的には1月に1回外観点検と測定を行います。年次点検は年に1回停電をさせて、月次点検では測定しきれない部分の測定や、不具合がある箇所の取り換え、キュービクル内の掃除などを行います。営業している時間をさけるために夜間や休日の作業になることが多いです。今回はそんな夜間の月次点検に同行、見学させていただきました。 左:電気主任技術者として独立間近の細沼さん 右:電験3種取得仕立ての伊藤さん


電気予報士・伊藤菜々さんレポート! JERA姉崎火力会発電所に行ってきました!

電気予報士・伊藤菜々さんレポート! JERA姉崎火力会発電所に行ってきました!

日本の電力の約8割を賄いながら、電力を使用するときのバランスを調整する役割も持つ火力発電。2023年2月に最新鋭のLNGコンバインドサイクル発電の運転を開始したJERA姉崎火力発電所に見学に行ってきました!熱いレポートをお届けします!


電気予報士・伊藤菜々さんレポート!福島第一原発の廃炉への現状

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!福島第一原発の廃炉への現状

2011年の東日本大震災に大きな被災を受けた中には、福島第一原発とその周辺エリアもあげられます。津波の影響で発電所内の電源が機能を失い、核燃料を冷やすことができなくなり、燃料自信の熱で溶けてしまうメルトダウンや建屋の爆破、放射性物質が放出されるという事故が起こりました。それから12年経った、福島第一原発の今と周辺地域の復興状況を見学してきました。写真:現在の第1号機


電気予報士・伊藤菜々さんレポート!電験三種に合格するまでの1年半体験記

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!電験三種に合格するまでの1年半体験記

電験三種令和4年度下期試験で二度目のリベンジ合格を果たした伊藤菜々さん。実務経験がなく文系卒からのチャレンジでしたが、もっとく電気に詳しくなりたいと一念発起。電験三種に合格した1年半の体験記と勉強のコツをお話しします。


最新の投稿


【電気の世界はおもしろい!】電気工事士の資格を取るとこんなことができる

【電気の世界はおもしろい!】電気工事士の資格を取るとこんなことができる

「電気工事士の資格を取ると、どんなことができるんだろう?」 私たちの生活には、家電が多く使われています。実際にどこからどこまでを対応できるのか、写真つきでわかりやすくご紹介します。


コーヒー好き必見!コーヒーメーカーの構造と仕組みを解説します。

コーヒー好き必見!コーヒーメーカーの構造と仕組みを解説します。

コーヒー豆を入れれば美味しいコーヒーを作ってくれるコーヒーメーカー。今回はコーヒーメーカーがどのようにコーヒーを作るのか、特徴的な部品に注目しながら解説します。あまり専門的なことを知らなくても理解できる内容ですので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。


電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「地層処分ってなあに?避けては通れない大事な問題」

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「地層処分ってなあに?避けては通れない大事な問題」

原子力発電をした後に発生する燃料の燃えカスを高レベル放射性廃棄物と言いますが、放射線を発することから、人が生活する場所から離れた場所へ保管することが決められています。地下深くに埋めることを決めており、そのことを地層処分といいます。発電後の廃棄物処理は電気を使う私たちにとっても重要な問題なのです。


現場で役立つ!私の自作道具たちをご紹介します

現場で役立つ!私の自作道具たちをご紹介します

アイデアと工夫で作業の効率化、時間短縮をしてみませんか?私が工事で使用している、手製道具の一部をご紹介致します。


電気工事士マンガ「転電虫」 第三十三回「技能実習生のお名前」

電気工事士マンガ「転電虫」 第三十三回「技能実習生のお名前」

最近では女性躍進、海外の実習生さんなど、多様な方が電気業界で大活躍しています!


人気記事ランキング


>>総合人気ランキング