電気が進歩していく様子を最先端で見る―電気保安業務の楽しさ、そして難しさ

更新日:2020.06.23投稿日:2020.06.23

映画「君の名は」のモデルになった場所と言われている諏訪湖がある、長野県下諏訪町。この地域周辺の電気を守っているのが、電気保安業務に従事する畑佳暁さん(31歳)です。実家が電気工事業を営んでおり、幼い頃から電気の仕事は身近な存在だったそう。電気工事業務と電気保安業は同じ電気の仕事ではあるものの、業務内容に違いがあります。具体的にどのような違いがあり、どのような魅力があるのか、畑さんに明かしていただきました。

電気保安の仕事は、思っていたよりタイヘンだった

――畑さんが担当されている電気保安の具体的な業務内容を教えてください。

電気主任技術者として働いています。一定以上の大きさの電気を使う建物の所有者は、有資格者に電気設備(自家用電気工作物)の保守保安をさせるという法律があるんです。もし有資格者がいない場合は外部にその業務を委託することができ、私はその委託業務を担当しています。具体的にはビルや工場などの建物へ行き、自家用電気工作物が安全に動いているかを点検する業務です」

――ご実家が電気工事業を営んでいたそうですが、具体的にどんなことをしていましたか?

「簡単に言うと、電気を使えるように施工することが主な仕事です。よく大工さんから依頼を受け、新築住宅やリフォーム住宅の電気の配線工事をしていましたね。ただ私が中学生の頃になると、住宅の配線工事は下火になったため、工場の配線工事にシフトチェンジ。工場が新しい機械を入れると配線を直す必要があるのですが、うちはその工事を請け負っていました」

――従業員を雇っていたのでしょうか。

「いえいえ、父親が一人で親方としてやっていました。中学生になってから、手伝いとして現場に同伴させてもらえるようになったんですが、そこで得た経験は本当に大きかったですね。建築現場には大工さんだけでなく、水道関係者や内装屋さんもいる。いろんな職人たちと触れ合い、お話しするなかで、自分にとってしっくりくるのはやっぱり電気関係の仕事だなって思うようになりました。電気って目に見えないじゃないですか。だから事前に計算と設計を入念に行い、施行するんです。そうやって事前に計画を練るのが楽しくて!でも、施工して上手くいかない時も楽しい。上手くいかなくって、どうすればいいかを現場で考えているとワクワクするんです」

――へえ〜。なんだか面白い視点。電気関係以外の仕事に就こうとは思わなかったんですか?

「ずっと野球をしていたので、野球に携わる仕事をしたいと思うことはありました。夢のないことを言ってしまいますが、当時、電気の仕事は“保険”として考えているところがあって。中学時代、次の進路を決める時に『野球の仕事が無理なら、電気の仕事をしよう』と決めて、工業高校の電気科を選びました。高校生になって『やっぱり野球は無理だろうなって』って現実が見えた時に、じゃあ電気に携わる仕事をしようと」

――電気に携わる仕事と言ってもたくさんありますよね。なぜ電気保安の仕事を選んだんでしょう。

「これもまた夢のない話になってしまうのですが、電気保安は電気設備を検査するだけだから、なんだかラクそうな仕事だと思って志望しました。ただ、実際にやってみると真逆で、結構タイヘン。電気工事の仕事は、建物に電気を流すことが目的ですが、電気保安の仕事は自家用電気工作物をどう安全に使い続けてもらうかを目的に対応します。とくに“安全”は最重要ポイントです。

電気保安の仕事を、もっとわかりやすく解説しましょう。キッチンの冷蔵庫置き場周辺にはコンセントがありますよね。このコンセント、昔は冷蔵庫の裏に隠れるような場所にあったんです。でも今は上の方に設置されています。なぜかというと裏にあるせいで掃除が行き届かなくなりコンセントにホコリが溜まり火災の原因になるからです。安全面を考えてコンセントを上に設置すべきと提案するのが、電気保安の仕事。電気保安は安全に電気が利用できる場所を考えます」

電気の可能性はまだまだ広がっていく

――安全を最優先に考えながら業務を進めていくんですね。

「そうですね。また理論的に物事を捉えることも大切になりますね。ある工場に点検に行った時、よく壊れるコンセントがあって、なんでここだけ壊れるんだろうと考えていたら、ちょうど荷物を運ぶ台車にぶつかりやすい位置にあったんです。だから、壊れやすくなっていたのだな、と気づくことができました。このままにしておくのは危険ですので、原因がわかった後はコンセントにカバーを付け、安全の確保に努めました。そうやって事故が起こる原因を見つけ、安全対策をし、事故を未然に防ぐ。これは理論的に物事を考えないとできないことです」

――この仕事の難しさとは?

「電気業界で働く誰もがそう感じていると思いますが、見えないものを相手にしているのでそこが一番大変ですね。実体としてつかむことができませんから、推測しながら業務を進めなくてはなりません。たとえば、ホテル。もし、宿泊客がドライヤーを同じタイミングで一斉に使ってしまったら、ブレーカーが落ちる可能性が出てきます。そうしたことを想定し、対策をしましょう、と提案するのです。でもそれはあくまで推測であって、正解かどうかは動かしてみないと分からなかったりします」

――最後の質問になります。畑さんにとって“デンキ”とは。

「なくてはならないもの。そして将来、広い分野で発展していくものだと思っています。技術が加速的に進歩し、スマートフォンで家電を操作できるようになりました。その動力は電気です。電気の可能性も広がり、それを最先端で見ることができるのがこの仕事の魅力。その進歩に追いつくために勉強をし続けないといけませんが、私自身はそれをまったく苦だとは思いません」

<畑佳暁さんプロフィール>
中部電気保安協会の諏訪営業所所属。実家が電気工事業であり、工業高校電気科在学時から電気保安管理業務に魅力を感じて2007年に入社。以降、電気保安技術者として、電気設備の保安、試験業務、電気安全使用の広報業務などを行う。

<取材・執筆>
野田綾子

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