電気が進歩していく様子を最先端で見る―電気保安業務の楽しさ、そして難しさ

電気が進歩していく様子を最先端で見る―電気保安業務の楽しさ、そして難しさ

映画「君の名は」のモデルになった場所と言われている諏訪湖がある、長野県下諏訪町。この地域周辺の電気を守っているのが、電気保安業務に従事する畑佳暁さん(31歳)です。実家が電気工事業を営んでおり、幼い頃から電気の仕事は身近な存在だったそう。電気工事業務と電気保安業は同じ電気の仕事ではあるものの、業務内容に違いがあります。具体的にどのような違いがあり、どのような魅力があるのか、畑さんに明かしていただきました。


電気保安の仕事は、思っていたよりタイヘンだった

――畑さんが担当されている電気保安の具体的な業務内容を教えてください。

 

電気主任技術者として働いています。一定以上の大きさの電気を使う建物の所有者は、有資格者に電気設備(自家用電気工作物)の保守保安をさせるという法律があるんです。もし有資格者がいない場合は外部にその業務を委託することができ、私はその委託業務を担当しています。具体的にはビルや工場などの建物へ行き、自家用電気工作物が安全に動いているかを点検する業務です」

 

――ご実家が電気工事業を営んでいたそうですが、具体的にどんなことをしていましたか?

 

「簡単に言うと、電気を使えるように施工することが主な仕事です。よく大工さんから依頼を受け、新築住宅やリフォーム住宅の電気の配線工事をしていましたね。ただ私が中学生の頃になると、住宅の配線工事は下火になったため、工場の配線工事にシフトチェンジ。工場が新しい機械を入れると配線を直す必要があるのですが、うちはその工事を請け負っていました」

 

――従業員を雇っていたのでしょうか。

 

「いえいえ、父親が一人で親方としてやっていました。中学生になってから、手伝いとして現場に同伴させてもらえるようになったんですが、そこで得た経験は本当に大きかったですね。建築現場には大工さんだけでなく、水道関係者や内装屋さんもいる。いろんな職人たちと触れ合い、お話しするなかで、自分にとってしっくりくるのはやっぱり電気関係の仕事だなって思うようになりました。電気って目に見えないじゃないですか。だから事前に計算と設計を入念に行い、施行するんです。そうやって事前に計画を練るのが楽しくて!でも、施工して上手くいかない時も楽しい。上手くいかなくって、どうすればいいかを現場で考えているとワクワクするんです」

 

――へえ〜。なんだか面白い視点。電気関係以外の仕事に就こうとは思わなかったんですか?

 

「ずっと野球をしていたので、野球に携わる仕事をしたいと思うことはありました。夢のないことを言ってしまいますが、当時、電気の仕事は“保険”として考えているところがあって。中学時代、次の進路を決める時に『野球の仕事が無理なら、電気の仕事をしよう』と決めて、工業高校の電気科を選びました。高校生になって『やっぱり野球は無理だろうなって』って現実が見えた時に、じゃあ電気に携わる仕事をしようと」

当時は野球選手を目指していた畑さん。

――電気に携わる仕事と言ってもたくさんありますよね。なぜ電気保安の仕事を選んだんでしょう。

 

「これもまた夢のない話になってしまうのですが、電気保安は電気設備を検査するだけだから、なんだかラクそうな仕事だと思って志望しました。ただ、実際にやってみると真逆で、結構タイヘン。電気工事の仕事は、建物に電気を流すことが目的ですが、電気保安の仕事は自家用電気工作物をどう安全に使い続けてもらうかを目的に対応します。とくに“安全”は最重要ポイントです。

 

電気保安の仕事を、もっとわかりやすく解説しましょう。キッチンの冷蔵庫置き場周辺にはコンセントがありますよね。このコンセント、昔は冷蔵庫の裏に隠れるような場所にあったんです。でも今は上の方に設置されています。なぜかというと裏にあるせいで掃除が行き届かなくなりコンセントにホコリが溜まり火災の原因になるからです。安全面を考えてコンセントを上に設置すべきと提案するのが、電気保安の仕事。電気保安は安全に電気が利用できる場所を考えます」

電気の可能性はまだまだ広がっていく

家族との時間も大事にしています。

――安全を最優先に考えながら業務を進めていくんですね。

 

「そうですね。また理論的に物事を捉えることも大切になりますね。ある工場に点検に行った時、よく壊れるコンセントがあって、なんでここだけ壊れるんだろうと考えていたら、ちょうど荷物を運ぶ台車にぶつかりやすい位置にあったんです。だから、壊れやすくなっていたのだな、と気づくことができました。このままにしておくのは危険ですので、原因がわかった後はコンセントにカバーを付け、安全の確保に努めました。そうやって事故が起こる原因を見つけ、安全対策をし、事故を未然に防ぐ。これは理論的に物事を考えないとできないことです」

 

――この仕事の難しさとは?

 

「電気業界で働く誰もがそう感じていると思いますが、見えないものを相手にしているのでそこが一番大変ですね。実体としてつかむことができませんから、推測しながら業務を進めなくてはなりません。たとえば、ホテル。もし、宿泊客がドライヤーを同じタイミングで一斉に使ってしまったら、ブレーカーが落ちる可能性が出てきます。そうしたことを想定し、対策をしましょう、と提案するのです。でもそれはあくまで推測であって、正解かどうかは動かしてみないと分からなかったりします」

――最後の質問になります。畑さんにとって“デンキ”とは。

 

「なくてはならないもの。そして将来、広い分野で発展していくものだと思っています。技術が加速的に進歩し、スマートフォンで家電を操作できるようになりました。その動力は電気です。電気の可能性も広がり、それを最先端で見ることができるのがこの仕事の魅力。その進歩に追いつくために勉強をし続けないといけませんが、私自身はそれをまったく苦だとは思いません」



<畑佳暁さんプロフィール>

中部電気保安協会の諏訪営業所所属。実家が電気工事業であり、工業高校電気科在学時から電気保安管理業務に魅力を感じて2007年に入社。以降、電気保安技術者として、電気設備の保安、試験業務、電気安全使用の広報業務などを行う。

 

<取材・執筆>

野田綾子

関連する投稿


百聞は一VR体験に如かず…!? 最新設備による電気保安の危険体験が安全意識を大きく変える

百聞は一VR体験に如かず…!? 最新設備による電気保安の危険体験が安全意識を大きく変える

中国電気保安協会では、近年発生している墜落や感電といった重大災害や毎年多数、発生している交通事故の撲滅を目的として、研修の一環に安全体感のVRを導入しています。 リアルな仮想現実の世界で危険な体験をすることで、あらゆる危険に対して感受性を高め、安全マインドを醸成することが目的です。


「電気の業界に入って本当によかった」転職で電気業界に入った先輩たちのリアルなインタビュー記事4選

「電気の業界に入って本当によかった」転職で電気業界に入った先輩たちのリアルなインタビュー記事4選

「新卒入社→定年退職」という流れが変わりつつある現代。仕事を通して本当にやりたいことを見つける人、更なるやりがいを見つけようと奮闘する人、キャリアの描き方は人それぞれです。今回は転職で電気業界で活躍する道を選んだ先輩たちのインタビューをまとめてご紹介します。


電気保安って具体的にどんな仕事?を解説します!

電気保安って具体的にどんな仕事?を解説します!

電気保安とは、言葉のとおり電気を安全に利用するために定期的な点検や検査を行うことです。このお仕事が適切に行われないと、漏電や火災事故が発生する危険性が高まります。つまり、電気保安を行う電気主任技術者は、そうした危険から日々、私たちの生活を守っているということです。本記事では、電気主任技術者の資格を有する僕が、電気保安のお仕事について詳しくお伝えしていきます。


輝け20代女子!電気業界で働く若者たち

輝け20代女子!電気業界で働く若者たち

2020年はコロナウイルスの感染拡大により、価値観やライフスタイル、あらゆるものの見方や生活様式が変わりました。そんな中、変わないのは、「いつもあなたの側で暖かな電気が灯っている」こと。そんな電気を安定して供給できるように、日々、安全を守り続けている若者たち。そんな彼らにスポットを当てたインタビュー記事をまとめてご紹介します。


電気は1人で灯せない。“チーム電気”で挑んだ台風19号による復旧活動【中部電気保安協会座談会・後編】

電気は1人で灯せない。“チーム電気”で挑んだ台風19号による復旧活動【中部電気保安協会座談会・後編】

2019年10月12日に上陸した台風19号。日本各地で多大な被害が発生した中、長野県が受けたダメージは特に甚大でした。河川は氾濫し、多くの建物や家が浸水被害に。それにより電気の供給がストップ。電気が使えない…そんな状況に困惑する人々を救うため、中部電気保安協会の長野営業所の皆さんは切磋琢磨して、復旧活動に努めました。前編と後編に渡ってお送りする、“電気の復旧活動”。後編では、復旧活動で求められる“チーム力”をテーマに語っていただきました。復旧活動を指揮した早川さんが「多くの方の協力があって、電気を灯せる」と明かすように、電気はみんなの力がひとつになって灯せるもの。チームで動く上で大切なこととは?


最新の投稿


電気は移動の未来も変える〜電気自動車や電気で動く乗りもの

電気は移動の未来も変える〜電気自動車や電気で動く乗りもの

いま、世の中には燃料を動力にして動く乗り物以外に電気の力を利用して動く乗り物が数多くあります。とくに「電気自動車」は、環境問題への取り組みが急務になっていることから、今後さらなる普及が予測されます。 今回は、電気自動車のしくみから、他の電気を活用して駆動する乗り物、未来に活躍するであろう乗り物を紹介します。


<見逃し配信あり>堀内健さんと一緒に社会科見学!関東電気保安協会が案内する電気保安のオシゴトと電気のハナシ

<見逃し配信あり>堀内健さんと一緒に社会科見学!関東電気保安協会が案内する電気保安のオシゴトと電気のハナシ

「電気を守るお仕事って、どんなことをするんだろう?」 ネプチューンの堀内さんがスタジオを飛び出し、関東電気保安協会へ!わかりやすく、楽しく、電気のお仕事を紹介してくれました。


【第二種電気工事士】勉強に必要なモノまとめ【2024年最新版】

【第二種電気工事士】勉強に必要なモノまとめ【2024年最新版】

本記事は「第二種電気工事士の資格勉強で必要な物が分からない・・」という受験者さんに向けの内容です。ネットや書店を調べると多くの教材がある中で「結局どれがいいのかわからない」というのが本音なんじゃないでしょうか。 結論から言うと、私が実際にお世話になった「すい〜っとシリーズ」が1番理解しやすく、勉強を継続しやすい教材です。 工具については「ホーザンの工具セット」が鉄板で、材料は3周練習できるセットをご紹介します。本記事では失敗しない教材選びを厳選。ぜひ参考にしていただければ幸いです。


生ごみや下水汚泥、家畜糞尿からエネルギー?バイオメタンの知られざる実力

生ごみや下水汚泥、家畜糞尿からエネルギー?バイオメタンの知られざる実力

石油や石炭などと同じ化石燃料として、温室効果ガスを発生させる液化天然ガス(LNG)は、カーボンニュートラルを目指した次世代において、使用を削減していかなければならない燃料のひとつです。 しかし、LNGは都市ガスに代表されるような一般家庭のガスや火力発電などにも毎日使用されておりすぐに使用を停止することができません。そこで、LNGの代わりとまではいきませんが、利用量を削減できる可能性のある新たなエネルギー源として、バイオメタンが注目されています。


電気工事士の魅力・やりがいとは?【現役電気工事士が解説します】

電気工事士の魅力・やりがいとは?【現役電気工事士が解説します】

電気屋さんの魅力とかやりがいってどんな時に感じるものなの?未経験の人にも分かるように教えて欲しい… 今回はこういった悩みに答えます。


人気記事ランキング


>>総合人気ランキング