電気業界の仕事とは?
航空自衛隊で培った経験を武器に!〜ラインマンとして活躍する桑名電建株式会社 浅野さんインタビュー
地上数十メートルの高さにそびえる鉄塔。送電線や鉄塔の建設、保守点検を行い、私たちの暮らしに欠かせない電気を安定して届けているのが、ラインマン(送電線作業員)です。過酷な環境での作業を担いながら、日本の電力インフラを最前線で支える存在として活躍しています。
今回、お話を伺ったのは、航空自衛隊から送電線工事の現場で活躍するラインマンへ転身した、桑名電建株式会社の浅野 竜也(あさの・たつや)さんです。未経験から送電業界へ飛び込んだ理由や実際に働いて感じたやりがい、今後目指すキャリアについて詳しく伺いました。
目次
航空自衛隊からラインマンへ――新たな挑戦を決意した理由
――まずは、浅野さんのご経歴からお伺いさせてください。航空自衛隊に入隊されたきっかけについて教えていただけますか?
「高校卒業後、地元で建築関係の仕事や工場の作業員として働いていましたが、ある日、私の性格をよく知る友人から『挑戦することが好きで、体を動かすのも得意だから、航空自衛隊に向いているんじゃないか』と勧められたことが転機となります。
もともと走ることが好きで体力にも自信があったので、『せっかくなら挑戦してみよう』と、航空自衛隊の採用試験を受験。その挑戦が、新たなキャリアのスタートにつながりました」
――合格をしていざ、航空自衛隊へ。航空自衛隊では衛生科に所属されていたそうですが、どのような任務に就かれていたのでしょう。
「航空自衛隊では、基地内での応急処置や身体検査のサポート、隊員の健康管理などを担う衛生科に所属していました。当初は、より体を動かす部署を希望していましたが、配属先は第二希望の衛生科だったんです。しかし、与えられた環境で全力を尽くそうと決めていたため、一つひとつの任務に真摯に向き合いながら経験を積んでいきました。
自衛隊として過ごした3年間は、規律ある集団生活の中で責任感や協調性を学び、仲間の大切さを実感する貴重な機会になりましたが、日々の業務に取り組むなかで、『もっと自分の限界に挑戦したい』『より現場の最前線で活躍できる仕事がしたい』という思いも次第に強くなっていきました。その気持ちが、新たなキャリアへ踏み出すきっかけとなったんです」

――退職後の進路として、なぜ「ラインマン」を選んだのでしょうか。
「もともと私は、同じ作業を繰り返すよりも、体を動かしながら働く方が好きな性格なんです。そのため、自衛隊を退職した後は、趣味で続けていたスキューバダイビングの経験を活かして、潜水士になるのもいいなと考えていました。
そんな中、将来の進路について調べていた際に、TikTokやYouTubeでラインマンが鉄塔の上で作業している動画を偶然目にしたんです。その姿を見た瞬間、『うわっ、かっこいい!』と強く心が惹かれました。高所で風を受けながら黙々と作業を進める姿は、誰にでもできる仕事ではなく、高度な技術と豊富な経験を持つプロフェッショナルだからこそ担える仕事だと感じたんです。
自衛隊に入る前は足場工事の仕事をしていたこともあり、高所作業にはある程度慣れていました。そのため、潜水士という選択肢もありましたが、「自分の限界に挑戦したい」という思いと、『この仕事をやってみたい』という憧れが重なり、最終的にラインマンの道を選びました」
――未経験から送電業界へ飛び込むことに対し、不安はありませんでしたか?
「不安はもちろんありましたが、『とりあえずやってみよう』と思い切って飛び込んでみました」
――入社前と入社後で、送電業界やラインマンの仕事に対する印象の変化はありましたか。
「正直なところ、最初は厳しい職人気質の方が多く、少し堅い雰囲気の業界なのではないかというイメージを持っていました。しかし、桑名電建の会社説明会に参加し、実際に働いている方のお話を聞いたり、現場での作業風景を映像で見たりするうちに、その印象は大きく変わりました。
みなさん気さくに接してくださるし、仕事に対する真摯な姿勢やチームワークの良さが伝わってきて、不安や恐怖心より『ここでラインマンとして挑戦してみたい』という気持ちの方が強くなっていったんです。航空自衛隊芦屋基地衛生科を退職後、2023年12月1日に桑名電建株式会社へ入社しました」

初昇りは足が震えた。恐怖を乗り越えられたのは「自衛隊仕込み」の冷静さ
――現在、現場ではどのような作業を担当されていますか。
「現在、メインで行っているのが鉄塔の組み立て作業です。現場では5〜6人ほどのチームで作業を行い、無線機を使って互いに状況を確認しながら、安全第一で業務を進めています。仲間との連携が欠かせないため、日頃からコミュニケーションを大切にしながら作業に取り組むよう心がけています。
作業を終えて地上に降り、自分たちの手で組み上げた鉄塔を見上げた瞬間には、大きな達成感を感じますね。何もなかった場所に巨大な構造物が完成している光景を見ると、『自分たちが社会インフラを支えているんだ』という実感が湧き、この仕事ならではのやりがいを感じますね」


――入社して約2年半とのことですが、初めて鉄塔に昇った時のことは覚えていますか?
「もちろん覚えています。正直、はじめは本当に怖かったですし、実際に地上高くに昇ると足がガクガクと震えました」
――その恐怖をどのように克服していったのでしょう。
「『やるしかない』という覚悟と、自衛隊時代に培った冷静さで乗り越えました。自衛隊時代は、不測の事態が起きた時こそ、一呼吸置いて落ち着くことの大切さを教わりました。焦れば判断を誤りやすくなりますし、その小さなミスが命取りになる。それは自衛隊もラインマンも同じです。
今でも高所作業に怖さを感じる瞬間はありますが、そんなときは深く呼吸をして、自分の状況を客観的に見つめるようにしています。感情に流されるのではなく、目の前のやるべきことに集中する。そのメンタルコントロールは、自衛隊時代に身に付けた大切な財産であり、今の現場でも確実に活きていますね」
――現場に入って気づいた自衛隊と送電業界の共通点とはなんでしょうか。
「チームワークと相互監視でしょうか。高所の現場では、一人のミスがチーム全員の命に関わる可能性があります。だからこそ、互いの安全を常に気にかけながら声を掛け合い、危険を未然に防ぐことが何より重要なんです。自分が作業に集中しているときでも、周囲の状況に目を配り、少しでも危険を感じたらすぐに伝える。その積み重ねが、安全な現場づくりにつながっていると感じています」
――自衛隊時代に培った習慣の中で、とくに今の会社で活かされていると思う点はどのような点でしょうか。
「チームワークや協調性、危機管理能力など、自衛隊で培った経験は今の仕事に大いに活きています。
自衛隊時代から、『この行動をしたら次に何が起こるのか』を常に考えながら行動することを意識していました。衛生科では隊員の応急処置も担当していたため、『こうした状況ではケガが発生するかもしれない』と危険を予測し、事故を未然に防ぐための行動を考える習慣が身についています。ラインマンの仕事も安全が何より優先されるため、危険を予測しながら行動する姿勢は現場で非常に役立っています。
また、高所での作業や緊張感のある現場では、冷静さを保つことも欠かせません。焦りや緊張によって判断を誤らないよう、一度立ち止まって状況を整理し、自分を落ち着かせることを心掛けています。この習慣も自衛隊時代に身についた大切な財産です」
年収は1.6倍に。プラスアルファで手に入れたのは「自由」という名の報酬

――航空自衛隊から民間企業へ。待遇面や生活面での変化は大きかったですか?
「私の場合、自衛隊時代と比べて年収はおよそ1.6倍になりました。自分の努力や身に付けた技術がしっかり評価され、その成果が待遇にも反映されるため、プロフェッショナルとして大きなやりがいを感じています。
また、生活の質も大きく変わりました。自衛隊では基地内での生活が基本で、門限や外出に関するルールもありましたが、現在は土日にしっかり休みを取ることができ、残業もほとんどありません。
そのため、趣味であるスキューバダイビングや釣りを思う存分楽しめるようになりました。「明日は朝早くから釣りに行こう」と思い立ったら、誰に制限されることもなく海へ向かうことができます。そんな何気ない自由が、今はとても幸せに感じるんです。
仕事とプライベートのメリハリがしっかりしていることで、心身ともにリフレッシュでき、その分、仕事にもより集中して取り組めるようになりました。働きがいと充実したプライベートの両方を実感できているのは、この仕事に転職して良かったと感じる理由の一つですね」
――ラインマンという職業において、自衛隊時代の経験が「強み」になっていると感じる部分はどこですか?
「私が仕事をする上で、一番大切にしていることは素直さです。これは自衛隊時代の班の行動目標でもあったのですが、ラインマンの仕事でも、素直さがもっとも重要だと感じています。
送電業界には、長年培われてきた安全のためのルールが無数にあります。先輩たちからのアドバイスや手順をまずは素直に受け入れ、そして自分の中に落とし込む。決まった手順を愚直に守りながらも、自分がやりやすい方法を考える。規律に対する誠実さは、自衛隊出身者の大きな強みだと思いますね」
自衛隊で培った力を、社会インフラを支える力へ――
――浅野さんの今後の目標を教えてください。
「まずはいちラインマンとして、技術を完璧に磨き上げること。現在は鉄塔の組み立てがメインですが、今後は電線を扱う架線作業など、さらに高度な技術を習得していき、将来的には現場を統括する班長を目指したい。自分が先輩たちに守り育ててもらったように、次は自分が後輩たちの安全を守り、確実に仕事を完遂させるリーダーになりたいと思っています」

――送電業界へ転職をしてよかったと感じることは?
「給与を含め、待遇面に関しては申し分ありません。それだけでなく、この仕事を通じて幅広い知識や技術を身に付けることができ、自分自身の成長を実感できることも大きな魅力です。これまでできなかった作業が一つひとつできるようになったり、新しい技術を習得したりするたびに、自分の成長を感じられるんです。努力した分だけできることが増えていくので、日々やりがいを持って働けています。
改めて『この仕事は自分に向いていたんだな』と感じますし、ラインマンという道を選んで本当に良かったと思っています」
――ラインマンに向いている自衛官は、どんなタイプの方だと思いますか。
「航空自衛隊時代に学んだ『素直さ』と『焦らず落ち着いて行動すること』は、どんな現場でも大きな武器になると思います。送電業界、特にラインマンの仕事は、ルールを守り、安全を最優先に考える自衛官の気質と非常に相性が良い仕事です。また、協調性を持ってチームで行動できる人や、決められたルールをしっかり守りながら安全に作業できる人は、この仕事に向いていると思います。加えて、体を動かすことが好きな人や、山登りなどアウトドアが好きな人にもぴったりの仕事ではないでしょうか。
さらに言うと、責任感や使命感を持って仕事に取り組める方にもぜひ挑戦してほしいですね。ラインマンの仕事は、人々の暮らしに欠かせない電気を安全・安定的に届けるために必要不可欠な仕事です。
社会インフラを守るという点では、自衛隊の任務とも通じる部分があります。『誰かの役に立ちたい』『社会を支える仕事がしたい』という想いを持つ方であれば、きっと大きなやりがいを感じられるはずです。責任の大きな仕事だからこそ、その分だけ社会に貢献している実感を得られる魅力的な仕事だと思います」
――最後に、退職後の進路に悩んでいる後輩の自衛官たちへメッセージをお願いします。
「自衛隊という特殊な環境で過ごした時間は、決して無駄にはなりません。なかには自分に何ができるかなと不安に思う方もいるかもしれませんが、自衛隊で当たり前に行ってきた『時間を守る』『挨拶をする』『仲間のために動く』『ルールを遵守する』ことは、どこの職場、特にインフラを支える現場で必ず活きるスキルです。
ラインマンの仕事は、暑さや高所での作業など、厳しい環境のなかで行われる仕事だからこそ得られる達成感があります。少しでも興味がある方には、ぜひ挑戦してみてほしいですね。一歩踏み出した先には、自衛隊のときとはまた違った、熱くやりがいに満ちた世界が待っていますよ。応援しています!」
まとめ
未経験で送電業界へ飛び込んだ浅野さん。「自分の限界に挑戦したい」という強い想いを胸に、一歩ずつ着実に成長を重ねています。
取材後、桑名電建株式会社の社長の桑名 智重様に浅野さんについて伺うと、「自衛隊で培った責任感と真面目な人柄で、一つひとつの業務に誠実に取り組んでくれています。技術力も着実に向上しており、周囲からの信頼も厚く、すでに即戦力として活躍しています。将来的には後輩たちを引っ張る存在になってくれると期待しています」と高く評価されていました。
人々の暮らしに欠かせない電力インフラを支える最前線で、自らの可能性に挑戦し続ける浅野さんの姿は、「新しい環境で自分の力を試したい」「社会に貢献できる仕事に就きたい」と考える多くの自衛官にとって、大きな希望や励みとなるのではないでしょうか。


プロフィール
浅野 竜也(あさの・たつや)さま
桑名電建株式会社
2023年12月に入社し、電工として鉄塔の組み立てや架線作業を行っている。
桑名電建株式会社公式ホームページ:https://kuwanadenken.jp


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