電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「農業×太陽光!ソーラーシェアリング」を見学してきました!

電気予報士・伊藤菜々さんレポート!「農業×太陽光!ソーラーシェアリング」を見学してきました!

カーボンニュートラルという言葉をよく聞くようになりました。これは、全世界における地球温暖化対策として、2050年までに排出されるCO2を実質ゼロにしようという取り組みです。そのためには、石油などの化石燃料を電気に変え、電気を再生可能エネルギー発電(以降再エネ)由来にすることが大事です。そのうちの一つに太陽光発電がありますが、土地の確保など課題がいくつもあります。そこで今回は、土地の有効活用や地域活性が一緒に行える農業×太陽光のソーラシェアリングを取材。ぜひ、興味を持っていただけると幸いです。


営農型の太陽光発電:ソーラーシェアリングってなに?

ソーラーシェアリングとは、太陽光発電所のパネルの下で農業を営むスタイルのことをいいます。2012年から固定価格買取制度というものが始まりましたが、これは太陽光発電所などの再生可能エネルギーを普及させるために、再エネで発電された電力を通常よりも高い固定価格で20年間買い取るという制度です。この制度が始まって以降、たくさんの大型太陽光発電所がつくられました。

これからも再エネを増やすために太陽光発電所をつくっていきたいところですが、土地の広さが限られていたり、買い取ってくれる固定価格が安くなったことで採算が合わなくなったりしているため、工夫が必要になっています。そこで今、注目されているのが、このソーラーシェアリングというモデルなのです。ソーラーシェアリングは、農業法人が作業する人がいなくて使われていなかった耕作放棄地や荒地を再生し、地域の人材雇用も促すことができる取り組みです。また、農業収入以外にも再エネの売電収入を得られ、農業、地域活性、再エネと一石三鳥の取り組みとして注目されているのです。

アグリガスコムさんの太陽光発電所

電力の発電量は、出力とその土地の日射量、パネルの性能などで決まります。出力とは発電所に使われているパネルの総容量を足したもので、発電所の規模のようなものだと考えてください。今回見学した発電所は、出力2,200kW。家庭の電力でいうと、約450件分へ供給する能力があります。

ここで発電された再エネ電力は、同じ中部電力エリアにあるアグリガスコムさんのブルーベリー農園のビニールハウスで使用されています。昨今は再エネ電力を使用したいという企業や自治体も増えており、今後もアグリガスコムさんではソーラーシェアリングの再エネ発電所をつくって、同じ地域の企業さんに再エネ電力を使ってもらう取り組みを進めていくそうです。

豊川産のニラを名産品に

ニラを栽培する理由について、今回詳しく教えてくれたのは、地元の農業学校を卒業した中林さんです。ソーラーシェアリングでは太陽光パネルがあるため、何もない農作地と比べるとどうしても日射量が少し落ちてしまいます。ニラであれば、多少日射が少なくても育ってくれるうえ、収穫した後も再び育ってくれるため、年間を通して何回か収穫ができるのだとか!

今後は同じような太陽光と農業を組み合わせた仕組みで耕作放棄地や荒地を農地にしていくことで、豊川のニラを地域の名産品にしていきたいとのことです。豊川ニラとして名産品になることで、農業を勉強した人や農業をしたい人にとっても魅力的な場所になりますね。
私も今回、ニラの収穫を手伝わせていただきました。農業経験がない私でも、簡単に収穫することができたニラ。おみやげ用のニラもいただいたので、この日はニラで野菜炒めをつくり、美味しくいただきました。

2050年カーボンニュートラルに向けて

エネルギーの観点という一方向から見ると、つい再エネを増やそうというところに焦点を当てがちですが、今回の取材では、同時に人口減少や地域の課題を解決していくことも重要であると実感しました。

今回訪問した豊川市には、栽培する人がいなくなってしまった畑や、耕作放棄地が多くあります。アグリガスコムさんは、人を呼ぶことができる仕組みとして、農業収入以外にも再エネの売電収入を得られるスキームに目をつけています。今回は農業×太陽光でしたが、他のエリアではため池に太陽光を浮かべる取り組みなどもあるようです。どの地域にも供給されている電力だからこそ、地域課題を考えながら取り組んでいきたいですね。

プロフィール

伊藤菜々(いとう・なな)

電力系ユーチューバー(電気予報士)

上智大学経済学部経営学科卒業。電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わった後2019 年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。電力事業の立ち上げ・運営支援、企業PRや商品広報、ZEH住宅やマイクログリッド等の地域脱炭素活動を行う。実績として大手新電力 での研修や営業企画、国立大学での講義、展示会やセミナー 等での講師を行う。 電気業界をたのしく!わかりやすく!解説した Youtube チャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を 2020 年 4 月開設し情報発信中。 第二種電気工事士試験を独学で合格。現在電験三種の一発合格に向けて勉強中。


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この記事のWriter

電力系ユーチューバー(電気予報士) 上智大学経済学部経営学科卒業後、金融業界に入社。その後、再生可能エネルギーファンドに転職し、電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わる。2019年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。事業内容としては、①会社・サービス紹介youtubeの作成 ②電力事業の立ち上げ支援 ③電力についての研修・困った時の質問窓口 などの支援をする。実績として大手新電力での新入社員・営業部員向けの短期研修や定期研修や国立大学(広島大学)での講義、電力系の展示会やセミナー等での講師を行う。

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