わたしたちはなぜ本を読むのか〜10代のうちに読んでおきたい本 2冊目「舟を編む」

わたしたちはなぜ本を読むのか〜10代のうちに読んでおきたい本 2冊目「舟を編む」

みなさんは「『右』という言葉の意味は?」と質問されたらどう答えますか。「左ではない方」でしょうか。右利きの人にとっては「箸や鉛筆を持つ手の方」かもしれません。あるいは、「東に向いたとき南にあたる方」なんて答え方もありますね。突き詰めると、私たちが普段当たり前のように使っている言葉の意味も、いろいろな表現の仕方があり、多義的で、奥深いものだと気付かされます。今回はそんな本をご紹介します。


2冊目 舟を編む

今回ご紹介するのは、「辞書」の世界を通して、そんな言葉の魅力や奥深さを存分に感じられる1冊です。2012年に本屋大賞を受賞、映画化やアニメ化もされた、小説家・三浦しをんの代表作『舟を編む』。出版社を舞台に、新しい国語辞書「大渡海」(だいとかい)が完成するまでのストーリーが描かれます。登場人物それぞれに情熱を持って、時に悩み、時に楽しみながら辞書編集に取り組む姿勢は、仕事や人間関係への向き合い方を教えてくれます。
玄武書房で辞書編集に人生を捧げてきたベテラン編集者の荒木は、定年を間近に控え、自身の後継者を探すことになりました。辞書編集部の社員・西岡が仕入れてきた情報により、営業部で変人扱いされていた馬締(まじめ)光也を引き抜き、長年温めてきた新しい辞書「大渡海」の編集に乗り出します。馬締は、下宿を本で埋め尽くし、大学院で言語学を専攻した、「言葉」への鋭い感覚を持つ、辞書づくりにぴったりな人物でした。はじめは編集部のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず悩む馬締ですが、言葉で「つながりたい」という思いがあることを自覚して、不器用ながらも仕事に、そして「運命の女性」との恋に向き合っていきます。

そして、13年後。「大渡海」はようやく本格的な編纂作業に入ることができ、さまざまなトラブルや別れを乗り越え、ようやく刊行にこぎつけることができました。しかし、「辞書の編纂に終わりは」ありません。刊行記念パーティーで「改訂作業」へと気持ちを新たにして物語の幕が降ります。

タイトルにある「舟」とは辞書のこと。本の中では、「大渡海」の名前の由来がこんな風に語られています。

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」

「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮びあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」

私たちは、日々の生活の中で、何かを学ぶ中で、仕事の中で、「言葉の大海原」を渡っていかなければならない存在です。そのとき、ほんの少しだけでも「より良く」思いを伝えたい――。この本の登場人物の人生に触れると、自然とそんな気持ちになるでしょう。そこから生まれる新たな出会いや可能性は、これからのあなたの人生を広げていってくれるはずです。

プロフィール

水無月游(みなづき・ゆう)

人文系の大学を卒業、大学院修士課程を修了後、教育関連の出版社に編集者として勤務。副業でライター業をときどき。主な関心分野は教育、福祉、政治など。読書は雑食、本棚が容量オーバーで本がいつも床に積まれています。

この記事のWriter

文学系の大学学部を卒業、社会学系の大学院修士課程を修了後、教育関連の専門書出版社に編集者として勤務。
副業でライター業をときどき。主な関心分野は教育、福祉、政治など。読書は雑食、本棚が容量オーバーで本がいつも床に積まれています。

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